終わりは始まり【消えていく大地】

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羅臼を後にして、海岸沿いを南下し野付半島を目指します。
海上にはシノリガモ、海岸沿いにはオオワシやオジロワシの姿もあります。
日本最大級の砂嘴(さし)は、地図で見ると今にも千切れてしまいそうなほど細く、頼りなく海に突き出しています。

半島の入口からしばらく走ると、右手が湿地のようになり、それがやがて干潟、そして海へと変わっていきます。両側に海が迫る、細い大地の中を進んでいきます。

ナラワラとトドワラ

かつてここには、ミズナラやトドマツの原生林が広がっていたといいます。
しかし、地盤沈下と海面上昇によって木々は立ち枯れ、今は白く風化した骸骨のような姿をさらしています。これが「ナラワラ」であり「トドワラ」です。
周囲には民家などはなく、海沿いに風化した小屋のような建物があるばかりです。
それが「地の果て」の雰囲気をいっそう強めています。

下は昨年の6月に訪れた時の写真です。

海流によって運ばれた砂で作られた「不安定な大地」は、現在、ゆっくりと小さくなり続けています。砂の堆積よりも侵食のスピードが上回り、数十年後には半島自体が消失するとも言われています。かつてそこにあった豊かな森は海水に浸食され、「死にゆく景色」となっています。流氷が命を育むエンジンなら、ここは海が大地を飲み込んでいく最前線です。

終わりが育む「海のゆりかご」

しかし、この「死にゆく大地」こそが、海の中では別の命の「始まり」を支えています。
大地が削られ、海へと溶け出すことで、土壌に含まれていた豊かな有機物やミネラルが再び海へと解き放たれていきます。その栄養を受け取り、野付湾の底に広がるのが「アマモ」の草原です。
このアマモ場は、「魚たちのゆりかご」となっています。
波が静かな浅瀬の草陰は、ホッカイシマエビやカレイの稚魚にとって格好の隠れ家であり、産卵場となります。そして、この豊かな浅瀬の恵みを求めて、シギやチドリ、あるいはコクガンといった鳥たちが、渡りの中継地点として集まってきます。

人も恩恵を受けています。

野付半島という地形そのものが、海流が運んできた砂が積み重なってできた「動的な大地」です。長い年月をかけて積もり、形を作り、そしてまた海へと還ろうとしています。ここは、常に姿を変え続けてきた場所なのです。

立ち枯れた木々の間をエゾシカが歩いています。彼らにとって、ここは「消えゆく場所」ではなく、今を生きるための場でしかありません。そこで暮らすのが難しくなれば、また別の場所へと移動していくのでしょう。

6月には袋角だった雄鹿の角も立派に育っています。
終わりは始まり

立ち枯れた木々が倒れて土に還り、海に飲み込まれた大地が栄養となって、また新たな地形を作ります。そこには、また別の生き物たちの居場所が生まれていくのでしょう。

流氷が深層から栄養を汲み上げるように、この大地の消滅もまた、大きな循環の一部です。一つの形が壊れることは、次の形が始まるための準備に過ぎません。野付の「消滅」もまた、形を変えながら続いていく永い物語のひとコマなのです。

羅臼での「躍動的な命の循環」と野付での「静かに姿を変え続ける大地」。
その姿は対照的ですが、どちらもこの地球が繰り返している、同じ一つの大きな循環なのだと思います。

帰り道、キタキツネがじっとこちらを見つめていました。

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