仕事場の前に一本のモミジの木があります。
そこに、黒い虫がじっと張り付いていました。近づいてみると、ハチの仲間のようです。木にくっついたまま、死んでいました。よく見ると、お腹の先から伸びる針のようなものが、木に刺さったままになっています。それが木のあちこちに。


調べてみると、それは「キバチ」というハチでした。針は産卵管だそうです。モミジは固い木ですが、片側が少し枯れかけて割れ目があり、そこを狙って刺していたようです。産卵後に力尽きたり、針が抜けなくなってそのまま死んでしまったりもするそうです。
さらに驚いたのは、産み付けるのは卵だけではないということ。体内に持っている「菌類」も一緒に木の中に植え付けます。卵から孵った幼虫は、その菌が分解して柔らかくなった木を食べて育つのです。おそらく菌類はキバチの中でも生き続け、次の木へと広がっていくのでしょう。
面白くなって、もう一度木を見に行きました。
すると今度は、黄色くて、びっくりするほど長い尾を持ったハチがやってきていました。

木の上を歩き、触角で何かを探っていたかと思うと、長い尾を曲げ、それよりももっと長い針を木に突き刺していきます。そのまま動かずにじっとしています。あまりにも無防備で、まさに命懸けの産卵なのだと思います。しばらくすると、静かに針を抜いて飛び去っていきました。

キバチは刺さったまま死んで、このハチは飛び去っていった。何が違うのだろう。
また調べてみると、さらに驚くべきことが分かりました。
その黄色いハチは「オナガバチ」という寄生バチでした。彼女が狙っていたのは木そのものではなく、昨年以前にキバチが産んで、木の中で育っていた「キバチの幼虫」でした。キバチの幼虫の身体に直接、卵を産みつけます。
ということは、キバチたちの死骸は、「ここに卵を産んだよ」という目印になってしまっている気もします。
なんということだろう。
ふと見ると、アリが卵を抱えて木の中から出てきたり、毛虫やコガネムシも集まったりしています。私が見たものは、この木で起きていることのほんの一部に過ぎないのでしょう。


片側が枯れ始めているそのモミジは、それでも葉を青々と茂らせ、プロペラのついた種をしっかりと準備していました。


