裏目か成功か

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森では山椒の実が割れ、蔦から紅葉が始まります。
鹿は夏毛から冬毛に生え変わっている最中です。
寒くなったり、暑くなったりで季節がわかりづらいですが、それでもいろんなものが秋を知らせてくれます。トリカブトの花もそのひとつです。

葉が落ち始めるとアカゲラも見つけやすくなります。

人間とトリカブトの関わり

トリカブトの名前は、雅楽の演者が頭にかぶる「鳥兜」に似ていることからついたと言われています。たしかに、帽子のような独特の形をしています。
ちなみに英語では「monkshood(修道士の帽子)」と呼ばれています。
どちらも「被り物」を見出しているのが面白いなと思い、他の言語での名前も調べてみました。

ドイツ語 : Eisenhut(鉄の兜)
フランス語:Casque de Jupiter(ジュピターの兜)
オランダ語:Monnikskap(修道士の帽子)
スウェーデン語:Stormhatt(大きな帽子・兜)
ロシア語:Шлемник(小さな兜)

ヨーロッパの言語の多くが「兜」や「帽子」に例えています。

アジアはどうでしょう。
中国や韓国では「烏頭(ウズ)」や「附子(ブシ)」と呼ばれます。
おっ、日本と同じように花を鳥に見立てたのかな?と思いましたが、こちらは「黒く塊状になった根っこの色や形がカラスの頭に似ているから」と書いてありました。漢方薬として使われてきた歴史があるため、花よりも「根」を大切にしてきた視点が伺えます。アジア圏はこの傾向が強そうです。

アイヌ語も調べてみました。
アイヌ語では「スㇽク(surku)」と呼ばれ、これは「毒」を意味するそうです。狩猟の際、毒矢の塗料として使われていたからですね。ゴールデンカムイにそんなシーンがあったような気がします。実用性に根ざしたド直球の呼び方です。周辺や環太平洋の狩猟民族の言語でも、「毒」に関連する名前が多く見られました。生活に直結した植物だったことがよく分かります。

ここで疑問が湧きます。
「ということは、かつての日本ではトリカブトの毒はあまり使われていなかったのだろうか?」
もちろんそんなことはなく、日本のマタギたちも狩りなどの毒矢として活用していましたし、薬としても使われていたと言われています。
ただ、日本で文字として記録を残してきたのは貴族階級の人々です。そのため、雅な「鳥兜」の名が正式な言葉として今に残ったのかもしれません。実際に毒を道具として使っていたマタギや山の人々の間では、もっと直接的な別の名前で呼ばれていた可能性もあります。
名前の由来をたどっていくと、そのものとどう関わってきたかが見えてきます。

帽子で蜜を守り、毒で全身を守る。

「裏目」か「成功」か

トリカブトがなぜこれほどの猛毒を持ったのかといえば、当然「動物に食べられるのを防ぐため」です。
それなのに、その毒が人間に重宝され、採取されていくというのは、植物からすればなんとも皮肉な結果です。
これは唐辛子にもよく似ています。
食べられないよう獲得した辛みを、人間から「美味い」と喜ばれて摘み取られてしまう。
しかし面白いのは、唐辛子の場合は、その辛みに魅了された人間によって世界中で栽培されるようになり、結果的に生息域を爆発的に広げることになりました。
もしトリカブトの毒や薬効がもっと日常的に使われていたとしたら、世界中に「トリカブト畑」が広がる未来があったのかもしれません。
※地域によっては実際にトリカブト畑があるそうです。

辺り一面とはいきませんが、いま、わたしの家の周りにはトリカブトがたくさんの美しい花を咲かせています。見る限り、鹿や他の野生動物からは見向きもされていません。
「食べられないための戦略」としては、十分に成功を収めていると言えそうです。

そして、少しずつ早くなる日没と、どこか物悲しい夕暮れの空もまた、秋が深まっていることを教えてくれます。

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