いつもの子鹿が落ち葉を食べています。まだ周りに緑の草が残っているのに、あえて落ち葉を選んでいるようにみえます。
美味しいのかなと疑問に思ってしまいますが、シカにはシカの都合があるのでしょう。


そもそも植物は、大事な葉を食べられたくないので毒や渋みといった防御を持っています。けれど落葉するとその防御が解かれ、毒や渋みが抜けて消化しやすくなるのかもしれません。また、普段は高くて届かない木々の葉も、落ち葉になれば簡単に味わうことができます。
食べるということ
わたしたち人間の腸内にもたくさんの細菌がいますが、シカなどの草食動物は、それ以上に胃や腸の微生物に命を委ねています。
シカが草や落ち葉を食べ、それが体内の微生物たちのエサとなり、微生物が分解してくれたものをシカが栄養として吸収します。
そう考えると、実際に草を食べているのは「シカ自身」というより「体内の微生物たち」なのかもしれません。草や落ち葉を欲しているのも、実は彼らだったり。
自分の欲望や感情だと思っているものは、案外、お腹の中の微生物たちにコントロールされているのではないか、そんな気すらしてきます。

昔の日本人は、こうした体の仕組みを感覚的に知っていた節があります。
「腹の虫が鳴く」「腹の虫の居どころが悪い」「腹の虫が収まらない」といった言葉があるように、自分のお腹の中に別の生き物がいるかのように表現しました。
感情を表す言葉にも、よく「腹」が入ってきます。腹が立つ、腹黒い、腹を割る、腹落ちする、他にもまだまだあります。
「自分」だと思っている主体は、本当は自分だけではないのかもしれません。
だからこそ、体、特に胃腸を整えることが、心や感情の安定につながっていくのでしょう。
子鹿の体内でも、落ち葉を好む微生物たちが「そろそろ落ち葉もちょうだい」とか「冬に向けてお腹を慣らしておけよ」と、子鹿に語りかけているのかもしれません。

そんなことを考えていると、わたしの前にいつもの雄鹿が現れました。そのまま森の中へと去っていきましたが、もし彼の腹の虫の居どころが悪かったらと思うとゾッとします。



